ドルボードレースをやってみよう!
東の空に、薄く煙がかった紫雲が、ぼんやりと光っていた。
地平のわずか縁べりに、太陽の陽影が浮かび始める。
私は、朝露を含む冷たい大気を胸いっぱいに吸い込むと、少し身を震わせた。当然、武者震いだ。
「今日、俺は最速となる」
人混みの静かな喧騒の中、私は誰にともなく独りごちたのだった。
ドルボードレースに行ってきたネタバレがあります!
3分30秒で商品全部もらえるらしい
チョッピ平野は、普段の閑散とした様子が嘘のように、人混みで溢れていた。
どこか張り詰めたような表情のレーサーたちが、あるものは受付を行い、あるものは自らのドルボードのチューニングを行い、あるものはただレースコースの地平を眺めている。
時折吹くわずかな風の中に、焼けたドワチャカオイルの匂いが混じっていた。
私は人混みをかき分けるようにして、受付の人を探した。
このドルボードレース、当然非公認のアングラ・レース。大々的に受付のブースが作られるわけにはいかない。
前情報では、1人の男がそのレースの受付を全て一任しているとのことだ。
レースに参加するには、まずその男を探し出さなければならない。
その野生の嗅覚を持つこと、それがこのレースに参加するまず第一の資格と言える。
だが、これまであまたの経験を積み、冒険を続けてきた私にとって、そのような試練は試練ともならない。
一眼だ。アト・ア・グランス。
その瞬間で、私は雑踏の中に滲み出る異質なる存在に気がついた。
溢れ出る圧倒的、異物感。
間違いない、奴がクエスト・オーナーだ。私はまっすぐに、彼の元に向かった。
・・・。
私は彼に見限りをつけると、くるりと振り向いた。
恐ろしいほどの手足れだ。だが、今回のレースにはなんら関係のない男であったようだ。これほどの圧を持った野生のNPCが普通に存在しているとは。このアストルティアには、まだまだ謎が溢れている。
そして隣にいた「レース屋パマテラ」というプクリポに話しかけた。
今度こそ間違いない、彼女だ。迸るオーラが彼女だと言外に示している。なんならレース屋って書いてあるから間違いない。
彼女がこのレースを支配するもの…レース・オブ・クイーン・パマテラ…。私はゴクリと唾を飲み込むと、彼女の話を聞いた。
彼女は一頻りレースの概要を語り終えると、最後に、口の端を歪めた。
そう、報酬の提示だ。
このレース、人と比較し速く走る必要はない。ただ必要なのは、このクエスト・オーナーであるパマテラが提示した条件よりも早く走り切ること。
そして彼女がその最高報酬の引き換えに提示したタイムは、「3分30秒」。
私は、彼女の手元に残された、レース・レコードを盗み見ることに成功した。
そこには、私も知る冒険者たちの、血と汗と涙のタイム・レコードが残されていた。1ページ目。誰もが、3分30秒を超えている。やったんだな、お前たち。私は心の底から、安堵のため息を漏らした。しかし、2ページ目を見たとき、心臓に冷たい鎌をあてがわれたような気がした。
そこには3分30秒を…超えられなった友の名が記されていた。
そして、彼女のその名の上には赤い線が引かれていた。その赤はまるで血のような色をしていると思った。
おそらく、彼女はもう、このアストルティアには…。
私は、足の震えが止まらなかった。その様子を楽しむかのように、レースやパマテラは貼り付けたような笑顔を崩すことなく言った。
「キキキ…カカカ…コココ…どうしたんですか冒険者さん、何を怯えているのです」
「貴様ァーッ!はくを…はくべにをどうしたんだ!」
「ククク…答える必要はありません。そして何より、あなたに答えを得る権利もない。なぜなら、あなたはまだこのレースに勝っていない…。烏合無象の1人に答えを知る権利など当然無い…」
「くっ…確かに…」
私は唇を噛み締めると、薄陽の空に浮かぶはくべにに誓った。
仇は、俺がとる。お前の苦しさ、悲しみ、悔恨、それら全てを引継いで、この勝負…俺が、勝つ!!!
チョッピ平野から風車までがコースらしい
スタート地点の前に貼られた光のレースガイドの前で、私は愛機おでんドルボードを取り出した。
周りを見やると、多くの冒険者が自らの愛機と共にスタートの時を待っている。
誰しも、言葉を紡ぐものはいない。
1人のエルフが、日に焼け褐色になった顔を歪ませて、ニヤニヤと笑いつづけているのが印象的だった。なぜなら、その目は少しも笑っていなかったから。
私は、チューンアップを施したおでん型ドルボードに跨ると、そのエンジンの鼓動に耳をすませた。
この日のために、ガソリンタンクを三倍まで積み込めるように改造したおでんマシンだ。轟々と唸るその熱膨張の振動は、不安に押し潰されそうになる私の心を支え奮い立たせてくれる。
私は、出走の直前まで、手元の地図でコースを確認した。
当然初めて走るコースだ。しかし、イメージの中で、何千、何万回と走り込むことで、初めての体験を、既知のものと昇華することができる。
それが、このレース、3分30秒という壁を乗り越えるために必要な、唯一の攻略法なのだ。
天高く、甲高い出走の合図が響き渡る。
私はついに地図をしまうと、まっすぐに地平を見つめた。
3分30秒。その壁を乗り越え、俺はこの試練を乗り越える。
散っていった、友のために。
コースが全然わからないけど誰かに付いていけばいいと気づく
スタートと共に、爆音が響き渡る。ブーストだ。飛び出したレーサーたちは、スタートと同時に一斉にドルボードのブーストを炸裂させる。
ブースト機能を忘れていた私も、その爆音に気づかされ、ブーストスイッチを点火させた。
危ない危ない、基本を忘れているところだった。
コース取りも大切だが、ブーストを切れ目なく使用することも、このドルボードを乗りこなす上で重要な要素の一つである。
だが、それは光明でもあった。
ブーストが一歩遅れたことによって、私の一歩先に進む冒険者たちのコース取りが、如実にわかるようになったのだ。
これだ…これが、必勝法…。
初めてのコースとはいえ、この見るからに熟練した他の冒険者のコースをトレースすれば、熟練者と同じタイムが出せるのは道理である。
私は震えた。そして歓喜の笑みをを浮かべる。
この勝負、俺の勝ちだ!
謎のトラップに引っかかる
1分以上を残し、風車の丘へと繋がる最終マップへと飛び込む私。
私の目測が確かならば、この時間ならば余裕で3分30秒以内にゴールできるだろう。よかった。友の仇を打てそうだ。何より福引き券が100枚あればレオパルドコインを当てて豪遊することができる。今装備している、開戦時ピオラの埋めつくしがついたアビス頭装備も、ようやく新しいものに買い換えることができるんだ。
安堵と喜びに、油断した私。
そう、あろうことか私は…油断していたのだ。
謎のトラップにハマる。
物凄い勢いで体にブレーキがかかる。
歩くことよりすら遅くなる、ドルボード。
なんということだ。みんななんでこんな狭いところを通ってこれに引っかからないんだ。ほとんどセーフティーゾーン無いように見えたけどみんなどうやってんの。
脱出できたころには、だれもいない。
しかし、私は最後まで諦めるわけにはいかない。
3分30秒までには…まだ、時間がある!!!はくべに・・・俺に、力をくれ!!
見えたゴールだ!!!!エンジン全開!
駆け抜けろ俺…
風になれ、俺!!!
初回にしては中々の好タイムなのでは
ということで、3つくらい報酬がもらえました。
これあの紫トラップに引っかからなければ、3分30秒は行ける気がする!またやってみまーす!!