しばしばオフトン

ゲーム、旅行記、医学、4コマ漫画。

コロナのPCR検査を無症状の人にやるべきかどうか悩む

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 コロナウィルスがまた蔓延しつつあって、でも経済も大ピンチなので「引くも地獄、進むも地獄」とか言いながらGOTOキャンペーンも始まりそうでして、まさに阿鼻叫喚の様相を呈し始めている昨今ですが、こんな時こそ冷静に深呼吸して生活したいものですね、と、病院の屋上でサンドイッチを食べながらのほほんと曇り空を眺めていたら「急いで無症状の人にどこまでPCR検査をするか考えてください」と悍しい院内メールが届きましたので動悸をこらえつつ考えてみました。

 でも、これって考えようがないんですよ!なぜなら有病率と検査の特異度がわからないから。特異度っていうのは、めちゃくちゃ非専門的に言えば検査の正確性です。

 無症状の人にもコロナウィルスの唾液によるPCR検査が認められましたので、それを使って、院内感染防止のため入院患者さん全員にスクリーニングをかけるというのも一つの手なのですが、そもそもの有病率が低すぎるところでやると、本当はコロナにかかっていないのに検査上「コロナかかってます」と出る、「偽陽性」ってやつが出てきてしまうんですよね。特異度が高ければそういう間違いが出る可能性は減るのですが、PCRの特異度がわからないわけです。

 まったくわからない、というわけではなくて、「特異度はかなり高い」ということまではわかっていますが、その「かなり」が曲者でして、どうやら99パーセントは超えているようだけれども、99.9なのか、99.9999なのか、そのあたりがわからないのです。99パーセントを超えているのならもうほとんど正確なんじゃない?という気持ちはたしかに漂うのですが、有病率がそもそも低い病気だと、この小数点以下がどのくらいあるかが結構大事になるのです。

 具体的に計算してみますと、無症状の人の有病率を0.1%(東京の抗体保有率のデータより)、感度70パーセント、特異度99パーセントで計算しますと、無症状の人を手当たり次第に集めて、検査で陽性と出た人が、本当にコロナウィルスにかかっている可能性は6.5パーセントくらいです。100人陽性と出れば、そのうち93人は本当はコロナウィルスにかかっていないのに、強制隔離になってしまいます。

 では、同じ条件で特異度を99.9パーセントにしますと、陽性と出た人がコロナにかかっている確率は41.2パーセント。大体半分くらいは本当にコロナにかかっている。でも半分以上は間違ってる。99.999パーセントにしますと、ようやく、陽性と出た人が本当にコロナにかかっている確率は98.6パーセント。陽性に出た中で100人に1人くらいは本当はコロナにかかっていないのに隔離されちゃうけど、99人は本当にかかっている、というそういう検査になります。そのくらいなら使える検査、な気がしますね。

 でも、結局この特異度が99パーセントなのか、99.999パーセントなのか、それは多分、今後もなかなかわからないと思いますし、このくらいの単位になってくると検査自体の問題より、PCRをかけるときのヒューマンエラーがどのくらい出るか、検査そのもの以外のバイアスのほうが大きくなりそうです。PCR検査に習熟しているかどうか、検体数が多すぎて忙しくなってないか、など、それは社会情勢次第で日に日に変わるバイアスです。なので、特異度を正確に判断するのはあきらめるしかないでしょう。世界が検査に習熟して、有病率が増えれば正確な特異度も検討できるようになると思いますが、そのころにはそもそも高い特異度が求められなくなります(有病率10%あれば、感度70%、特異度99.9%で陽性反応的中度は98.7%)

 ということで、結論としては無症状の人にどこまでPCR検査をするべきかは、特異度や有病率がわからない以上、悩みますね、としか言いようがないのですが、上司に神妙な面持ちで、「無症状の人にどこまでPCR検査をするべきかは…悩みます」と提言してどうなるか。その顛末を見届けてきたいと思います。