この長き戦いに…今宵、終止符が打たれる!!
フレンドと大富豪する
某日…某所…。
四人の男女が、その地に静かに腰を下ろした。
その瞬間、晴れ渡る空には暗雲が立ち込める。
それはまるで、世界がこれから始まる戦いを忌避しているかのようだ。
しかし、彼らは戦うことを止めない。
何故なら、彼らは戦士であり、そして強い相手がそこにいる以上、戦わざるを得ないーそういう宿命を背負っているから。
「そろそろ、『最強』を決めようか」
誰ともなくボソリと呟いたその声が、戦いの火蓋を切る合図だったー。
相手は初心者ばかり、この勝負余裕である
さて、ということでフレンドのサワッチ 、えりん、はくべにと全てを賭けた大富豪で勝負をすることになりました。
全てを賭けた、というのは若干言い過ぎで、私はなんとなく持っていたゴレオンカードを賭けるくらいのものだったのですが、気持ち的には全てを賭けているも同然です。
何故なら、サワッチ、えりんはドラクエで初めての大富豪。
はくちゃんは五段とのことですが、私はすでに7段のアンルシアカード持ちですので、はっきり言って彼らとは格が違います。
「わーい大富豪大富豪」と呑気に喜んでいる彼らに、本当の大富豪の恐ろしさというものを知らしめてあげることにしましょう。
プロの大富豪は、カードを配られた時点からすでに戦術を始めています。
私の配牌には残念ながら最強カードたる2やJokerが無かったのですが、それを気取られることなく、さりげなく「2が2枚か…」となんとなく呟くことで、相手を恐怖させる。この一言で、すでに私が「場」を支配したのです。これは「オープニング・ビッグマウス」と呼ばれる大富豪界に伝わる秘奥義の一つですが、初心者の彼らには知る由もないことでしょう。
そして、初手から出し惜しみすることなく、続けて秘奥義「ダブルカードしばり」を繰り出します。
このダブルカードしばりは、2枚のソートで縛ることで、圧倒的に次のカードを出しにくくさせるというほとんどチート級の大技。あまりに多用するとGMすら現れる可能性があるとされていますが、頂上を決めるこの戦い、GMなど恐れている場合ではありません。
技の発動と同時に、精神的に彼らを追い詰めることも忘れてはいません。
1ゲーム目なので、私も平民ではあるのですが、「しばりって何?」と震える彼らの目にはもはや私は大富豪、いや帝王とかキングとかそういうものにすら見えていたに違いないでしょう。
さらに、ルールがままならない彼らに、私はその猛攻を緩めることはしません。
闇大富豪界秘奥義の一つ、「5スキップ」をここで打ち込んでいきます。
争うことすら出来ずに、順番を吹き飛ばされたはくちゃんが、画面の向こう側で唇を噛み締める姿が浮かぶようです。でも、悲しいけれどこれが、戦争なのよね。
そして私はついに、闇大富豪界ですら最悪の禁じ手として封印されている、あの究極奥義。「激しばイレブンバック」を発動させました。
この技は、ハートの10から、ハートの11を繰り出すことによって、次に出すカードをハートの10に限定させる、しかしハートの10は当然今出たばかりのカードであり、ジョーカーでしか回避が不可能であるという…ほぼ必殺の奥義。さすがの私も、これを初心者たち相手に繰り出すには良心の呵責を感じざるを得ませんでした。
しかし、私は鬼になることを決めたのです。この勝負、一切情けをかけることはしない。塵すら残さず、ただ勝つと。
ああ、可哀想に!!
サワッチは今この場に訪れている絶望的なまでの力に気づくことすら出来ていません。圧倒的膂力にて屠らんとする獣の前に、ニコニコと近づく観光客のようです。それが動物園の獣ではないことに、気づいた時には、遅いのに。
私は見てもいられず、彼らに説明することにしました。
しかし私は手を緩めない。
ルールを説明することすらしない、ただ勝つためにまっすぐに。繰り返しますが、一切の情けもかけないことーそれが、私という鬼にとっての、正義ですらあったのです。
すまない、サワッチ 、えりん、はくちゃん。でも、これが大富豪の怖さだって、わかってもらうには…これしか方法がなかったんだ。
果たして。
私が次々と繰り出した圧倒的な秘奥義の数々に、戦場は燃え、焼け野原と化し。
動乱の1回戦が終わりをつげたのでした。
あれっ
それはレボリューション
夢を見ているのか…?大貧民だと…?
一瞬、めまいとともに意識を失いそうになりましたが、堪えます。
確かに、秘奥義は炸裂した。しかし、大富豪は当然運の要素が大きい戦いです。
圧倒的力も、神の気まぐれというべき僥倖の前には抗えないこともあるでしょう。
ふふ、そうでなくては。
私はニヤリと口の端を歪めました。
面白い、ひさびさに本気を出すことが出来そうだ…!
さて、2ゲーム目、私の配牌。
大貧民ですから、さすがにここは弱いカードが多くなっています。
ふむ、こういう時は革命を起こすことが一番の最善手ですが、残念ながら4枚出す組み合わせもありません。誰かが革命を起こしてくれれば一番良いのですが…。
と思っていた、その瞬間。
はくちゃん…!!
でかした、でかしたぞ!!
当然ながら革命は全てのカードの強さが逆転する…。つまり、これによって大富豪の持つ強力なカードは弱くなり、大貧民たる私のカードは強くなる…。
この瞬間、全ての地位が逆転したのだ。
ふふふ、大富豪、サワッチよ。肌で知るがよい、これが大富豪という戦争の、恐ろしさだと…!!
と思った次の瞬間!私は驚きの光景を目にした!!!
はくちゃん?
革命によって親をとったはくちゃん、まさかの次ターンで革命返し。
はくちゃん…?
そうか、はくちゃんは現在富豪…
それなりに強いカードが揃っていたはずであり、初手から革命するということはありえなかったのか…。
そうだよな、はくちゃんも馬鹿じゃない。
私は彼女の手の平の上で踊り、ぬか喜びしてしまったようだな…。
はくちゃん?
今こそ同盟を
しかし、この期を逃す手はありません。
痛恨のミスを繰り出したはくちゃん、心が不安で押し潰されそうになっているに違いなく、これは完全にチャンスです。
大貧民であり、革命も失った私には協力する仲間が必須な状況。
ここは弱った彼女を籠絡し都合よく利用するしかありません。
よし!
いくぞはくちゃん!
破ァッ!!5スキップ!!
第一次イコはく同盟、締結直後に破談!
大富豪サワッチ
革命も失い、同盟すら失った我々に勝機は見えず、ただ茫然と戦局が進むのを見守るのみとなってしまいました。
残り1枚となったサワッチ。
違うゲームと混同しているくらいのに、またしても連続大富豪!!!
馬鹿な…こんなことがありえるのか…?
そして1戦目から、ニコニコとルールを聞いてくるえりん。それももはや作戦だったのかもしれません、何も知らない純情な乙女のフリをして、鋭い牙を隠しもつヴァンパイアだったのか…そういえば顔色もすごく悪い…
五段と七段をさしおいて、大富豪と富豪をかっさらっていくサワッチ、えりん。
こいつら…ルールを知らないのにこの強さ…
まさか…天才か?
3位と4位に甘んじる五段と七段。
どうやら、我々は彼らを初心者と見誤っていたようだ。
決して油断などしていなかった。ただ、羊を相手にすることと、狼を相手にすることでは、こちらの作戦も変わってくる。つまり、我々は相手の本質を、見誤っていた。
しかし、この2戦で完全に相手の実態を知ることができたー。
もう、負けるはずが無い。
動乱の3戦目
3戦目。お世辞にも強いとは言えない配牌ながら、3や8を多く持てています。
これは、革命さえ起こせればかなりの勝機が見込まれます。
その私の気持ちを感じとったか。
はくべにが…動いたー。
来た・・・!!
革命だ!!
でもまって!?
はくちゃん待って!?
スライムもういっぱい溜まってるから!
すぐに革命返しされちゃうよ!?
それとも…革命返しを見越しての、この革命なの…?
そういう私の気持ちが届いたのか、気づいたのか。
彼女は静かに呟いた。
完全にスライム返しに気づいてなかった感じやん!
でも、大丈夫。任せておけ、俺ははくちゃんの味方だ。
スペードさえ出さないようにしておけば、ジョーカーを待っているうちに
サワァアアアッチ !!!
あの天真爛漫なはくちゃんが舌打ちするくらいの憎悪よ。
しかし、やられっぱなしでいる私ではありません。
しばらく静かに戦いを続ける中、雌伏の時を過ごし、その刃を閃かせる時を待っていたのです。
さらに、スライム革命!!
革命後、3と8をこれだけ残している。
ただ、すでにはくちゃんは1枚となっており、彼女に勝つのは難しそうですが、今回はここまで大富豪ー大富豪と来ている悪の大王サワッチさえ討伐できれば、この戦いは勝ちといって良いでしょう。
今度こそ、はくべに、えりん、イコプの共同戦線を張る時です!!
今、強大なモンスター、サワッチ討伐に向けて三人の心が一つになったことを確かに感じました。えりんーイコプーはくべにとカードを出せれば、都落ちによりサワッチが倒れることになります。そのためには、親であるえりんが弱いカードから出すことが重要。革命中なので、2やA、最低でも文字カードから欲しいところ。
第一次えりんはくイコ同盟、またしても破談!!
しかし、その後ギリギリの攻防を続け、私が親を獲得。
ゴール前に走り込むはくちゃんに、私がパスを蹴り込んだ。
よし…!!
巨悪…墜つ…!
これにより、3戦目が終わった時点で、誰にもまだ優勝が狙える状況に。
完全に、場は整いました。
次で決まる。
本当の最強が、誰なのか。
本当の強さとは、何なのか。
それを、探しに行こうー。
最期の戦い
もはや、小細工など必要なかった。
全員が、持てる全ての力、技、運を出し切る戦い。
それは激しくもあり、美しくもあり、そして哀しい戦いだった。
そして訪れた、この最終局面。
親である私。
JJによるイレブンバックからの、55で勝利である。
すでに残カードははくべに2枚、サワッチ4枚、えりん4枚。
この最終局面において、彼らがJJからの55よりも上のカードを2枚、持っている可能性は低いだろう。十中八九、私の…勝ちだ。
思えば、長い戦いだった。
当初は初心者、弱者だと甘く見ていたサワッチ、えりん。しかし彼らは天才だった。戦いの中でルールを学び、1戦、1戦の中で見違えるように強くなっていった。いや、その強さを引き出したのも、私とはくべにという有段者の強さを受けてのことであろう。この四人だからこそ、ここまでの高みにたどり着くことが出来た。確かに私たちは敵同士だ。しかし、敵同士戦い合う中でこそ得られる、絆という何かを、私は確かに感じていた。
ーでも、これは戦争なんだ。
戦争は終わらせなければいけない。
そこに最期、立ち残るのはたった一人だとしても。
私は2枚のカードを手にとった。
そして、三人の顔を見つめると、そのカードを振り下ろした。
・・・静寂が訪れた。
歯がむように、笑うように、はくべには頭を振る。
パスだ。
いこぷん、負けたよ。君がナンバーワンだ。そう彼女の表情は言っていた。
そしてサワッチも静かにため息をつくと、さすがだぜイコプ、やっぱりお前には勝て
あれっ
あれっ
ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああ
嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ