しばしばオフトン

ゲーム、旅行記、医学、4コマ漫画。

最近読んだ本【3】

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こんぬづわ。イコプです。 ゴールデンウィーク全力で働いた結果、良くわからない時差ボケを獲得することに成功しまして、今目がランランと輝いていますが体はとてもダルいです。よーし!生きるぞ!

さて、本です。

村上春樹 雑文集

村上春樹さんがデビューしてからの、単行本としては発表されなかった様々な文章がまとめられた本です。エッセイだったり、スピーチだったり、誰かの本の序文だったり、そういうものがまとめられています。

村上春樹さんは、大学生の頃に「ノルウェイの森」を読んでから好きになりました。不安定だけど強固、しなやかだけど脆い、そんな矛盾したメンタルを描かせたら最強な人だと思います。

村上さんは、ノーベル賞受賞するかするかーって言われ続けてしない、という方なんですが。何で受賞しないのか、ってちょっとこの本を読んで気づいたことがあります。やや、「良い格好しぃ」なんですよね。作家論とかを書き始めたら作家としては終わり、という話を聞いた事があるのですが、この本でも村上さんの「小説を書くということ」はページをある程度割かれていますし、全編を通じて、「私は小説を書くときは…」という自己アピールが強すぎる気がするんですよね。

何か大きなこと、全く新しい考えとか、世界に衝撃を与える何か、を村上さんが生み出したかというと、やや違う気がします。エンターテイメントとして面白い小説を書くとは思うのですが、文学を書いているかというとどうなのだろう。強いて言えば、妙にエロイことを書いても芸術っぽく許容される的な空気感、を作った人だとは思うのですが、文学なのだろうかそれは。

もともと、村上春樹さんの本は大好きで、底知れないカリスマ性に何となく憧れている部分はあったのですが、この本を読んで、30年という期間にまたがって書かれた村上春樹さんの文章を俯瞰的に見てみると、見えていなかった底の奥が、見えてしまったような気がしました。悪い意味ではなく、底の奥にあるものが、神様みたいな理解不能な物ではなく、人間らしいものだったのだな、と感じました。

例えば、この本では村上さんが「私が小説を書く時に気をつけているたった一つのこと」的なものが、余りにも沢山出てきます。30年にもまたがった文章なので、それはその時々で、村上さんが気をつけていたことが違うということなのかもしれませんが、そんなにどんどんと軸が変わって行くのはありえることなのかな、と。そう思うと、このそれぞれの時期に村上さんが言った「気をつけていること」は、村上さんの心の芯に貫かれている普遍的なものではなくて、その時々の村上さんが、「周りにこう思われたい」という意識でのっぺりと包んだ、何かなような気がするのです。

エンターテイナーである以上、周りにどう思われるかというアンテナは非常に重要で、それは人の気持ちになって考える力とも言い換えることが出来ます。この力は、面白いストーリーを構築する上で非常に重要と思うのですが、逆に、外に意識が向きすぎてしまう、自分の中で絶対的な何かを構築していくにはやや不向きな性質だと思います。

村上春樹さんは、私にとって圧倒的リスペクトな存在であることには変わりないのですが、この本を読んで、宗教的な、盲目的なそれとは違って、もっと人間臭い尊敬になりました。大学生の頃から神様のように感じていた方が、人間らしいところ、つまり人の目を意識する部分を見せてくれた事は、嬉しいような、悲しいような感じでした。年を取るたびに、誰でも少しずつ神様の数は減って行くのでしょうが、それはサンタさんが居なくなっていくのと同じように、大人になってからも、何才までも、死ぬまで、続いて行くことなのかなと思います。