しばしばオフトン

内科医、栄養専門医。平和な日常。

3囚人問題をドラマティックに考える

最近趣味で統計の勉強をしたりしているのですが、その練習問題の中に、「3囚人問題」が出てきて悩みましたので紹介します。

3囚人問題とは、こういう問題です。

ある監獄にA、B、Cという3人の囚人がいて、それぞれ独房に入れられている。罪状はいずれも似たりよったりで、近々3人まとめて処刑される予定になっている。ところが恩赦が出て3人のうち1人だけ助かることになったという。誰が恩赦になるかは明かされておらず、それぞれの囚人が「私は助かるのか?」と聞いても看守は答えない。 囚人Aは一計を案じ、看守に向かってこう頼んだ。「私以外の2人のうち少なくとも1人は死刑になるはずだ。その者の名前が知りたい。私のことじゃないんだから教えてくれてもよいだろう?」すると看守は「Bは死刑になる」と教えてくれた。それを聞いた囚人Aは「これで助かる確率が1/3から1/2に上がった」とひそかに喜んだ。果たして囚人Aが喜んだのは正しいか?

どうでしょうか。

なんとなく、感覚的には「たしかに1/2に上がった」と考えるような気もしますし、「看守に尋ねただけで助かる確率が上がるはずがない、1/3のままだ」という感覚もします。

実はこの答えは「助かる確率は1/3のまま」なのですが、「えーでもAとCのどっちかが助かるんだから1/2じゃないのー」という気持ちもなんとなく捨てきれない。そこでしっかり数学的に答えを計算するために、例えば下のベイズの定理などを使って1/3だと証明するわけです。

f:id:ikopu:20171010224137p:plain 【ベイズの定理】

そうこのベイズの定理を上手に使うことで・・・うん・・・そうか間違いなく1/3のままだと納得・・・できるかいぁい!

ということで、数学的な証明が仮にできたとしても、結局「なんとなく納得がいかない」のがこの問題。数学的なアプローチは完全に正しいとしても、凡人には納得できないことが多いのです。そこで私はこの問題の解としてもっと別の方法をとってみます。

そもそもこの問題がわかりにくいのはなぜかと考えてみますに、AとかBとか、設定がなんだか無機質で、現場の雰囲気が伝わってこないからではないでしょうか。もっとより現実に即した感じの状況を想定して、より感情的に、よりドラマティックにこの状態を再現すれば、わかりやすく答えが導けるのでは・・・。

ということで、この問題をよりドラマティックな問題に修正してみたので、これで考えてみましょう。

たけしは瞼に眩しい光を感じて、目を覚ました。 牢獄の布団の上に、小さな窓を通して、まっすぐに月の光が差し込んでいた。四角い窓格子の形をした光の影が、たけしの顔を照らしている。そうか、今夜は満月だったのか。見ることができるのは最後になるかもしれない月。それが満月だなんて、運が良いような気もする。 でも、本当の運の良さが試されるのは、明日の朝だ。 明日、たけし、キャサリン、ボブ蔵の3人のうち、2人は死ぬ。助かるのは1人だけ。何があったのかはよく分からないが、俺たち3人のうち、1人は死刑を免れることになったと聞いた。

「でも、きっと助かるのは俺じゃない」

たけしは満月に手を伸ばしながら、そうひとりごちた。

悪辣な職員たちの虐待に耐えかねて、3人で孤児院を脱走してから、たけしはキャサリンとボブ蔵と一緒に生きてきた。血は繋がっていなかったけれど、少しだけ年が上だったから、彼らの兄のようなつもりだった。2人を守る為に、大抵の悪事は経験してきたし、取り返しのつかない罪も背負った。その為に、今3人はこうして牢獄に入れられている。しかし、その手が汚れているのは、俺だけだ。ボブ蔵もキャサリンも、神様の前では悪いことをしていない。

「神様、俺が死ぬのはかまいません。でも1人だけ助かるというのなら、ボブ蔵を助けてやってください」

ボブ蔵もキャサリンも、たけしにとっては同じく大事な兄弟だ。でも、仮に俺とボブ蔵が死刑になって、この寒空の街の下に1人放り出されたキャサリンを想像すると、それはあまりにも胸が苦しているくなる光景だった。ボブ蔵は1人でもなんとか生きていけるかもしれない。でも、キャサリンは無理だ。きっと、死ぬよりも辛い運命が彼女を待ちかまえている。

たけしは無意識に膝をつき、小さな窓いっぱいに大きく広がった満月に両手を合わせた。神様の存在なんて、この10数年間、一度も信じたことはなかったけれど。今はそこに神様がいると素直に思えた。

「ボブ蔵を助けてやってください。ボブ蔵を助けてやってください」

その時、監獄のドアのそばで、かすかな物音が聞こえた。看守だ。どうやらたけしの声を聞きつけ、ドアのそばで様子を伺っていたらしい。

「どうした、寝られないのか」

「看守さん。明日の、死刑になるのが誰かって・・・教えてくれませんか」

「・・・言えない決まりだ。仮にお前が死ぬとわかったら、今夜のうちに、自殺してしまう恐れもあるからな」

「わかってます。でも、俺が助かるかなんてどうでもいいんです。そうだ、残りの2人のうちどちらか・・・どちらかは死刑になるはずです。1人だけでもいい、その名前が知りたい。確実に2人のうちどちらかは死刑なのだから、教えてくれてもいいでしょう」

「・・・」

「看守さん、お願いします」

「わかった。・・・キャサリンは死刑になる」

「・・・!そうですか」

心臓が締め付けられるな痛みが訪れ、そして、少し和らいだ気がした。頭の中に浮かんでいた、ゴミ捨て場のような街中でボロボロになって佇むキャサリンの姿。それはもう、今後この世に存在することはない。

ボブ蔵か、俺のどちらかが助かることになるけれど。それはきっとボブ蔵だろう。あいつももう立派な男になった。1人でも上手に生きていける。そうして俺は天国で、キャサリンと一緒に、あいつの人生を見守っていればいい・・・。そうしていつかあいつが人生を全うした時に、また3人で暮らせばいいんだ。

「看守さん」

「・・・なんだ」

「ありがとう、ございました」

「・・・」

たけしは静かに布団に入った。寝よう。大変だったけれど、きっと天国でいい人生だったと思えるはずさ。

その晩、たけしは生まれてきて初めて、安堵とともに熟睡することができたのだった。このときたけしの助かる確率は看守と話す前と後で増えただろうか。

さあこういう問題だったとして。考えてみましょう。 たけしが助かる確率は看守に尋ねたあとで上がったかどうか! んー上がってない気がします?ね? なんかむしろボブ蔵が助かる気がしてきましたね?

ということで答えは「1/3のまま」

感情的にも納得ができたということで、安堵とともに熟睡します。