しばしばオフトン

ゲーム、旅行記、医学、4コマ漫画。

最近読んだ本【2】戦争と一人の作家

スポンサーリンク

春ですね。 春といえば、そう、ウィンドウショッピングですよね。

という事で休みを利用して近所のデパートに行ってウロウロしてました。 基本的にというかもう絶対的にインドアな私ですが、逆に奥様は圧倒的にアウトドアなアンバランス夫婦なんで、それなりに出かけることがあるわけです。奥さん居なかったら休みの日はずっと家にいるばかりか、たぶん9割はベッドの上にいると思います。

そんな私も、やるときはやる、ってんで、名古屋のオシャレな服がギュウギュウと押し詰められたファッションビルの一角に入りました。そして服だアクセサリーだと目をキラキラさせる妻を見て、俺も負けられない、よーし!本屋にいこう!と本屋で息をひそめてじっとしていました。その時です。

f:id:ikopu:20160414022047j:plain

と奥さんがお伝えしてくれました。 えっこれイラストにする必要ある?と思うところだと思うんですけど。 イラスト一個くらい入れた方がなんか華があるじゃないですかブログって。 雰囲気を大事にしたいなって・・・ロマンチストですみません。ふふ。

「佐々木中」という方は、私が好きな作家?みたいな人です。この人は未だ若い方で、といっても40才くらいなのかな?どこかの大学で教鞭を取られている人だと思います。とにかく、すごく気取った文体で文章を書く方です。ともすれば中二病に近いような文章。たぶんそんなところも含めて、感性が近いような気がしていて、この人の本がとにかく好きなのです。ファンに近い。ベッドの横に置いておいて寝床の薄明かりでパラパラと読んでから寝るのが大好きなのです。そんな大好きな方の新しい本が出ていたということ。 これは買うっきゃない!と、どんな本なのかも良くわからないまま手にとりました。

戦争と一人の作家/佐々木 中

坂口安吾という、堕落論なんかで有名な人を介した、批評です。私は、安吾さんもまた中二病というかややロックな趣のある人なので、結構好きな感じなのです。ですので、坂口安吾×佐々木中といったらこいつはもう面白くないはずがない、いやでも、最悪どう見ても面白くなさそうでも佐々木中なら買う、というくらい盲目になっている私なので、とりま購入したわけです。

読んでいる途中なんですが、もう、本当笑いました。 いや、笑うのを想定された本じゃないと思うのですが、面白いのです。基本的に佐々木中さんの本は難解なので、多分私は完全に理解できていない、というか、もう見当違いに理解しているとは思うのですが。

簡単にいうと、序盤は、坂口安吾が笑いを追求した文章を書いて、これぞ大爆笑!みたいな作品を作ったつもりなのに、もうそれが恐ろしいほど笑えない。なんでこんなに笑えないのか。それを考察していきたい、というような感じなのですが。それを、坂口安吾も気取った文体、佐々木中さんも気取った文体で書いているので、いかにもしょうもないことを哲学的な事を言っているように見えてしまって面白いのです。

例えば、坂口安吾は、笑いの辺りのこと(ファルスと呼んでいます)を、「ファルスとは、最も微妙に、この人間の「観念」の中に踊りを踊る妖精である」現実としての空想のーここまでは紛れも無く現実であるが、ここから先へ一歩を踏み外せば本当の「ナンセンス」になるといふ、斯様な、喜びや悲しみや欺きや夢や嚔やムニャムニャや、あらゆる物の混沌の、あらゆる物の矛盾の、それら全ての最頂天に於て、羽目を外して乱痴気騒ぎを演ずるところの愛すべき怪物が、愛すべき王様が、すなわち紛れなくファルスである」と書いているそうです。

わっけがわからない!感じですが、つまり、もうグッチャグチャすぎても面白くなくて、ありえそうだけどギリギリそれは無い、その微妙なところが面白い、とまあそういうことだと思います。

つまり突然花とかを頭に刺しまくって全裸で腹踊りをしてるおっちゃんが居たら大爆笑か、というと全然それは面白くないですよね。むしろ怖いですよね。それが、凄いスーツでビシッと決めたおっちゃんが振り返ると何故か頭に一輪のひまわりが刺さっていた、となるとちょっと面白いわけですよ。これがつまりナンセンスと観念の中でちゃんと踊れたかの境目になるわけです。

で、坂口安吾という人は、そういう高尚な定義を立てた上で、そういう愛すべきファルスを生涯を書けて書こうとしたらしいのです。卑近な感じで言えば俺は人生を書けて超絶面白いコントがしたい!みたいな感じです。

果たして、坂口安吾は物語を書きました。その、人生を書けて作り上げたファルス的作品が引用されていました。要約するとこんな作品です。

「カツラをかぶっている人がいたので、家に忍び込んでカツラを盗んでやった。これで明日あいつは困るだろう、と思ったら次の日もちゃんとカツラで来てた。スペアが、あったのかー!畜生ー!」

という話です。

真顔ですよ。

え?これが観念の中に踊りを踊る妖精?

まだスーツのおっちゃんの頭にひまわりが刺さってた話のほうが笑えるで?

そのように思ったのは、佐々木中さんも同じようです。 ここで、この本が面白いのは、佐々木中さんが「つまんねwww」と書いてるわけではなくて、哲学者たる堂々たる形で、冷静かつ情熱的に、この話を批評しているのです。引用しますと、

「確かにこれはファルスなのだろう。(中略)充分に、「莫迦莫迦し」く、「同情」もない。のだろう、おそらくは。だが、これはあの安吾にふさわしい「白熱と熱狂」を備えているか。「爆発的」か。何よりも「合理精神」が尽き果てたその彼方にあるものだろうか」 「確かに、これら初期ファルスを単なる駄作として片付けることは容易であろう。だが、ならばなぜ安吾がファルスを書くことに失敗し続けたかを問わねばならない。何故の失敗か」

ということで、何故面白くなかったかをこの後200ページ以上に渡り学術的に考察していくわけです。すごい本だと思いませんか。途中私は、何度も、もうやめたげて!と言いたくなりました。何故面白くなかったからって、「安吾さんのユーモアのセンスがちょっとあれだった」という普通に考えたらまず浮かぶその理由はともかく置いておいて、何故面白くなかったかを哲学的に考察しつづけていくのです。私、「安吾は何か勘違いをしている」というところには、赤線を引っ張って、その下に「ww」と書き込みました。そのくらい面白かったです。

まあ、それは私の曲解があっての話で、ファルスというのは性格には単なる爆笑とは多分ちがって、芸術的なことだと思うし、それを通じてもっと深遠な何かを語る材料として登場させているだけのことだと思います。最終的に戦争論にも繋がって行く本です。でも、笑い、となるとちょっと突っ込まずにはいられませんでした。良いよね、笑いだもの。ツッコミは大事だよね。

ということで、難解ですが面白い本です。書店で見かけたらパラパラと見てみてはいかがでしょうか。